研究代表者は、これまでにヒトデの行動様式を自律的に変化させるメカニズムとして、管足と腕という運動器官の階層構造による運動様式の不安定化があることを指摘してきた。管足と腕の運動は、実験水槽の底を透明にし、水槽下部から撮影した動画像を解析することによって調べることができるが、微小な管足を拡大撮影するためには画像の視野を狭くする必要があり、研究代表者のこれまでの手法では非常に短い時間の管足運動しか解析できなかった。そこで、本研究では、ヒトデの運動を追跡しながら管足運動を記録するための自動追跡記録装置を作成した。この結果、これまでの2倍程度の距離に亘る移動の際の管足運動を記録できるようになった。この装置は、実験水槽の上方から水槽全体を撮影しPCによってヒトデの移動を検出し、この移動情報に応じて、水槽下側に設置した管足撮影用のカメラを移動させるものである。 自動追跡装置の使用により、長時間のビデオ撮影が可能になった反面、本研究の目的の一つであった、障害物通過時における管足・腕運動の観察には成功しなかった。この原因の一つとして、ヒトデの方向性を持った運動を引き出すために餌物質の抽出液等を使用した際に、水流のコントロールが難しく、ヒトデの方向性を持った運動は比較的短時間しか観察できなかったことが挙げられる。こうした問題を解決するためには、自動追跡装置および実験水槽の改良が必要となる。本研究の研究成果を要約すると、「実験観察装置の開発には大きな進展が見られたが、ヒトデそのものの運動様式に関する新たな知見は得られなかった」ということになる。しかし、実験失敗の理由について得られた幾つかの示唆については、今後の研究において必ず活かすことができるものと考えている。 本研究の成果の一部を、2006年8月に開催された第12回国際棘皮動物学会にて発表した。
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