V1野における長距離水平結合の計算原理について計算論的観点から再考察し、V1野モデルを構築した。得られたV1野モデルが神経生理学的・認知心理学的知見と整合性が高いことを明らかにした。数値シミュレーションにより、当該モデルの画像処理能力を評価した。 V1野長距離水平結合の計算論的役割としてはこれまでに、共線性(colinearity)・共円性(cocircularity)またはGestalt性の一つである良い連続性(good continuity)に基づく、画像エッジの強調(pop out)が考えられてきた。同時に、これらの基準を採用した多くの視覚数理モデルが提案されている。しかしながらこれらの処理基準は、水平結合の重要な特性である非線形性を説明することができなかった。また、上記基準の数学的定義や定量化があいまいであるため、得られるV1野モデルには調節すべきパラメーターが非常に多いという工学的欠点がある。 そこで本研究では、上記の基準以外の計算原理として「多解像度画像再構成」を提案した。画像再構成はノイズ除去を含む基本的な画像処理である。また、多解像度性を導入することで画像再構成能力の向上が期待される。多解像度画像再構成は、入力画像と推定画像に関する汎関数(評価関数)によって数学的に明確に定義することができる。提案モデルは、V1野の細胞が方位検串だけではなく多解像度画像再構成を行なっていると仮定することで、演繹的に導出される。V1細胞のダイナミクスや結合等、モデルに必要な情報は全て、汎関数に最急降下法を適用することで得られる。 詳細な解析の結果、汎関数から導出された提案モデルは水平結合の非線形性のみならず、方位コラム選択性や空間分布についても、神経生理学的実験結果と整合することが確認された。また数値実験の結果から、これまでに提案されてきたエッジ検出手法よりも能力が高いことが確認された。理論解析により、長距離水平結合の非線形性は、順逆拡散現象による画像処理を行っていることが示唆された。
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