本研究は人間の持つ感情、情緒を生体信号測定に基づき客観的に評価する手法を提案することを目的としている。感情・情緒に関する従来の研究は情報を受容するいわば受動的な状態において行ったものがほとんどであるが、感性を考慮したインターフェイスや環境の設計を行うには、人間がこれらと受動的にも能動的にも関わることから、何らかの行動をしている際、すなわち能動的な状態でどのような感情・情緒が生起するかを把握することも重要である。 電卓を利用して計算作業を行う際の行動観察および生体信号データを分析したところ、使川する電卓により課題遂行時間に差が出ることが示された。課題遂行時間は満足しているかどうか、また使ってみたいかどうかなどの主観評価項目の得点とも相関を示した。一方で、呼吸や脈拍、発汗量等の生体信号データも使用する電卓により変動したが、その傾向は被験者によりまちまちであり、現段階では主観評価との明確な関係を見出すには至っていない。また、マウスを利用してウェブブラウジングを行う際の感情評価についても、行動観察と眼球運動・生体信号計測を組み合わせた実験を行った。生体信号データの特性値は電卓を使用した実験の場合と同様、試行全体に関しては主観評価との明確な関係が示されなかったことから、画面をスクロールさせたりハイパーリンクをクリックして別のページに行くときなどマウスを使用する際のデータを中心に、現在詳細な分析を行っている。たとえばクリックする対象物を見ている際の注視時間を分析し、クリックする対象へのポインティングのしやすさの定量的な評価を行い、主観評価得点との相関を検討していく。
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