観光情報学に関する体系的な研究を始めてから一年近くがすぎ、様々な新しい知見が得られるようになった。この一年間で得られたもっとも大きな収穫は、「インターネットには記録は存在するが、記憶は存在しない」という知識である。観光によって得られた経験は、写真であれ、紀行文であれ、それは記憶であって記録ではない。ある観光対象のすばらしさは、人によって感覚が異なるため、それを検索することはかなりの困難さを伴うということが分かってきた。他方、高度情報化社会の進展は、これまで難しかった"記憶"の共有を可能にする可能性を生み出していると考えられる。有史以来、観光経験の記憶は文字情報や描画によって記録され、きわめて最近になってから画像や映像で記録されるようにもなった。この観光経験の記憶については、著名人の著述ぐらいしか後世に残っておらず、時代を超えて先人の感動を共有することがきわめて難しかったのである。しかし、近年のITの発達は、誰もが情報を作り出し、簡単に保存し、そして共有さえも可能になってきている。その結果、同一地域で同じ観光対象に対して観光経験をした者同士の間で、経験の共有が行われるようになってきており、その蓄積されたデータは時空を越えた共有をも可能としている。これは、ITによって、人類史上初めて体感できた観光情報の共有といっても良い事態であろう。次年度においては、この、観光情報の共有について、より掘り下げた考察を行いたいと考えている。
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