本研究では、特に俳句の認知過程とその脳内基盤について検討した。平成17-18年度に行った俳句印象に関するSD法データによる因子分析結果から、俳句印象の構造が他の感性刺激と同様に、評価性・活動性・力量性であることが明らかになっている。19年度は、MD法という研究者らが過去に開発した手法を用いて、それぞれの俳句刺激が、どの程度、モダリティに関連性があるのかを検討した。その結果、俳句印象と視覚の関連性が非常に高いものであることが認められ、また他の近刺激受容モダリティ、遠刺激受容モダリティがまとまった因子として浮かび上がってきた。次に、俳句の読みにおける速度感について心理学的に検討し、俳句刺激の速度印象と、俳句を読んでいる時の時間の印象との間に相関があることが明らかになった。つまり、ゆっくり時間が流れるように感じる俳句を読んでいる時には、その間の物理的な時間もゆっくりと感じる(あるいはその逆)というものである。さらに、俳句印象に関する脳内基盤についても機能的磁気共鳴画像診断法(fMRI)を用いて検討した。個別の俳句刺激に対し「美しい-醜い」や「静かな-賑やかな」などのSD法評定を行っている時の脳活動計測を行った。俳句印象の評価性・活動性・力量性ごとの因子評価と脳内活動との関連性について検討し、評価性については前頭前野、活動性については側頭葉や視覚野、力量性については補足運動野や前頭前野の活動が高くなることが明らかになった。これらの結果は、心理学的に印象評価の因子が個別性が高いことが認められているが、脳内活動のレベルでも同様のことが言えることを示すことができた。
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