研究概要 |
本研究は,通常の加齢変化(normal aging)を対象とし,加齢に伴って変化する認知機能の維持・回復を目指した訓練手法の開発の基礎となる科学的データを提供することを目的としている. 本年度は以下の2点を中心に研究を進めた. 1.高齢者の注意特性の検討 固視点上に生じる変化(課題非関連な妨害刺激の出現や消失)を無視し,その左右いずれかに提示される標的への単純反応を求める課題を用い,標的に対する反応時間を高齢者群と若年者群とで比較した.高齢者,若年者群共に固視点上に変化が生じない条件に比べ,変化が生じる条件において標的への反応が遅延した.興味深い加齢差は固視点上に変化が生じる条件で認められた.若年者群では妨害刺激の出現と消失とでは反応時間に差が認められなかったのに対し,高齢者群では妨害刺激が出現する条件に比べ,消失する条件において反応時間が有意に増大した.以上の結果から,(1)若年者・高齢者共に固視点上に生じる変化を無視することが困難であること,(2)高齢者では消失による影響が大きいことが明らかになった.更に妨害刺激の変化量を操作した実験を行った結果,高齢者は固視点上に存在するオブジェクトの完全な消失による影響が特に強い可能性が示唆された.これらの成果の一部は日本心理学会第69回大会(小講演「注意と加齢:機能低下と機能補償」)において発表された. 2.認知機能の評価・訓練課題の選定と作成 上記課題や分割的注意課題に加え,日常生活で重要な役割を担う展望記憶に関連する課題を認知機能の評価・訓練課題として作成した.当課題は外傷性脳損傷患者の社会復帰を考える上で展望記憶が有効な指標となりえる可能性を示唆した研究(石松他,2006)で用いられた課題をベースとしたものである.現在,当課題を用いて基礎データを収集中である.
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