研究概要 |
本研究は,通常の加齢変化(normal aging)を対象とし,1.高齢者の注意特性の検討,2.高齢者の認知機能の維持・回復を目指した訓練手法の開発の基礎となる科学的データを提供すること,を目的としている. 本年度は2.を中心に研究を進めた.特に訓練しえる認知機能を判断し,訓練方法を作成する上で重要となる認知機能評価課題の選定に重点を置いた.新たな評価課題として日常生活で重要な役割を担っている展望記憶(prospective memory : PM)に焦点化した課題(石松他,2006)を追加し,実験を行った. 展望記憶評価実験において,参加者は主課題として探索画面文字列内での標的文字の位置判断を行ったが,事前に指定された文字(展望記憶手がかり:PM cue)が文字列内に含まれていた場合には,主課題を中断し,PM cueへの弁別反応を行った(PM課題).主課題及びPM課題の成績を若年者群と高齢者群とで比較した結果,主課題・PM課題ともに高齢者群の正答率は若年者群に比べて低い傾向にあった.更に高齢者群では正答率の個人差が大きく,特にPM課題において顕著であった.またPM課題での誤反応パターンを高齢者群と若年者群とで比較した結果,群間に顕著な違いは認められなかったが,PM課題における成績の低下はPM cueの検出や適切な行為の実行に失敗したこと(failure in prospective component of PM)に起因していることが明らかとなった. 展望記憶評価実験や同時に実施した複数の神経心理検査の結果を踏まえて,評価バッテリーの絞り込みを行った.また,これら評価課題の成績を基に,訓練対象となる候補者をピックアップした. 一方,1.高齢者の注意特性の検討に関しては,昨年度からの研究を継続し,研究成果の一部を国際会議(6^<th> Annual Meeting of Vision Sciences Society)において報告した.
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