本研究の目的はfMRIによる脳活動計測を用いて、被験者が合成音声を言語音または非言語音として知覚した際の脳活動領域の違いを明らかにし、さらには、言語音の知覚時の脳活動と言語音の生成時の脳活動を比較することで音声生成系と音声知覚系の関係を明らかにすることである。 研究初年度は関連する先行研究を調査し、fMRI実験に用いるための適した音刺激を作成し、それを用いた知覚実験による音刺激の適合性の評価、および脳活動計測実験の予備実験を行った。 複合正弦波を用いた合成音を被験者がまず非言語音として聞かせ、次に言語音としての示唆を与えて聴取した時の脳活動を比較するという先行研究(Dehaene-Lambertz et al. 2005)を参考にして実験を組み立てた。言語音として聴取し始めると非言語音として聴取が困難になるという先行研究の限界を改善するために、より細かい条件での音声加工による刺激を作成した。 手法としてはまず、音声からそのフォルマント構造を多段階的に取り除く変化を加えていくことで少しずつ音声として知覚することが困難になるような合成音を音声合成ソフトSTRAIGHTを用いて作成した。異なる変化率を用いて合成した音声を聞き、それを言語音あるいは非言語音のいずれと認識したかを答える知覚実験を行った。その後に変化率を少しずつ変えることで似通った音刺激を言語音または非言語音として認識させる課題を遂行中の被験者5人の脳活動をfMRIを用いて計測し、その認識の違いによる脳活動の差を解析した 言語音または非言語音として認識した際の脳活動を比較した結果、予測された側頭葉等の脳活動部位の活動差が充分には検出されなかった。これは変化率が近い音刺激を提示した際に、言語音あるいは非言語音と認識したときの脳内での処理の差を十分に検出できなかった可能性があることが原因と推測された。
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