研究概要 |
本研究の目的は、人の脳が言語音の処理を非言語音の処理とは異なるモードで行っている可能性を探ることである。被験者が言語音と楽器音という異なる音聴取を予測している状況下で、音刺激を処理する脳活動の違いをfMRIを用いて調べた。手法としては言語音声と雑音のモーフィングにより、音韻性の判別できる合成言語音および判別が困難な劣化音声雑音を作成し、同様に楽器音と雑音をモーフィングにより楽器音らしさを知覚できる合成楽器音と、知覚できない劣化楽器雑音を作成した。実験は次の二つのセッションからなる。(1)被験者に合成音声音と劣化音声雑音が呈示されると教示を与えた上で、呈示音が言語音に聞こえるか否かを判定させた。また(2)合成楽器音と劣化楽器雑音が呈示されると教示を与えた上で楽器音に聞こえるか否かを判定させた。実際には(1)では合成言語音と劣化音声雑音を、(2)では教示と異なり合成楽器音と劣化音声雑音を呈示した。したがって被験者は各セッションで異なる予測のもとに同じ劣化言語雑音を聴取したことになり、その処理で生じた脳活動を比較した。 その結果、全く同じ音刺激を聴取しているにもかかわらず、言語音聴取を予測している状況下では、楽器音聴取を予測している状況下と比べてブロードマン22,40野および左島皮質の活動が有意に高まった。これらの脳領域は音韻処理障害における病巣部位として、また健常者の言語知覚課題遂行時の活動領域として報告されている領域である。本研究からこのような言語関連領域が実際の言語課題遂行時に活動するのみならず、音刺激を言語音として処理しようとする被験者の予測に依存して活動することが示された。つまり、実際に入力された物理量によらず、脳内での聴覚処理に音声モードが存在する可能性が示された。
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