本研究の目的は、共分散構造モデルでのモデル選択における情報量規準の非正規性の影響を調べることにある。最適な共分散構造を決定する手法に仮説検定法がある。この検定統計量のほとんどは、観測値に対し正規分布を仮定した下で導出されているが、仮定された正規分布と観測値が本当に従う分布である真の分布が異なる場合、この検定統計量の帰無分布は漸近的に真の分布がもつ正規性から「ずれ」を表す指標である多変量尖度に依存する分布に従うことが知られており、実際にYanagihara et al.(2005)で検定統計量の漸近分布を非正規性の下で導出することにより、その漸近分布が真の分布の多変量尖度に依存する形となることを確かめた。また、そのようなずれの影響は多変量尖度の推定量を用いて除去することも可能であるが、Yanagihara(2006a)で従来の多変量尖度の推定量は非常に大きな標本数がないと大きなバイアスを持つことを確かめ、仮説検定を修正することにより新しい選択法を提案することに限界があることを確かめた。一方、情報量規準により最適なモデルを選択する手法は、確率分布を用いていないため、真の分布のずれの影響は仮説検定を用いる手法よりも小さい。しかしながら、標本数が小さいとき、観測値の次元が標本数に較べ大きいとき、また真の分布の非正規性が大きいとき、情報量規準はリスクに対して無視できないバイアスを持つことがある。Fujikoshi et al.(2005)では、多変量線形モデルにおける変数選択問題での情報量規準のバイアスをブートストラップ法を用いて補正した規準量を、またYanagihara(2006a)では部分的にクロス・バリデーション法を用いることでバイアスを補正した規準量をそれぞれ提案した。共分散構造モデルにおいても、部分的にクロス・バリデーション法を用いることでバイアスを補正した規準量を柳原(2005)で提案し、この規準量が従来の規準量であるAICやTICよりもバイアスが小さくなることを数値実験により確かめた。
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