研究概要 |
k個の正規分布N(θ_i,τ_i)(τ_iは既知),i=1,...,kの平均θ_1,...,θ_kに対して、simple order(θ_1【less than or equal】...【less than or equal】θ_k)を仮定する。この不等式制約の下での平均の最尤推定量に基づいた統計解析は、解析的なアプローチが難しいので、ブートストラップ法のようなリサンプリング法の適用について考察した。 まず、リサンプリングに用いる確率分布を考える。各母集団においてそれぞれの経験分布関数を用いる場合は、平均間に制約を仮定していないことに対応する。一方、すべての母集団のデータをプールすることによって得られる、各母集団の経験分布関数の重み付き和の分布をすべての母集団において用いる場合は、すべての平均が等しいという制約に対応する。したがって、これらの2つの確率分布の"間"に適当な確率分布を考えたい。そこで、不等式制約の下での平均の最尤推定量に対応して、各母集団の経験分布関数を適当な組に分け、それぞれの組において経験分布関数の重み付き和の分布を構成すると、これらの分布の平均は不等式制約を満たす。この確率分布がこれまでの研究では最も合理的であると考えられるので、この確率分布を中心にシミュレーションを行った。 まず、不等式制約の下での平均の最尤推定量のバイアスは真のバイアスより小さく推定される。次に、たとえば、k=3の場合に、H_0:θ_1=θ_2=θ_3,H_1:θ_1=θ_2<θ_3,H_2:θ_1<θ_2=θ_3,H_4:θ_1<θ_2<θ_3の4通りのいずれであるかを決定するという問題を考える。この問題を情報量規準によるモデル選択として捉え、平均対数尤度のバイアスを推定すると、不偏に推定できないが、モデル選択の結果は他の確率分布を用いる場合と比べて平均的によいことがわかる。今後は、情報量の立場からこの確率分布の妥当性または改良について理論的に研究を進めたい。
|