脳の電気的活動を反映する脳波と脳血流量を反映する機能的磁気共鳴画像(fMRI)など他のモダリティで計測されたデータとの関連性を調べその応答関数を推定するのが本研究の目的である。fMRIの他に脳血流量を計測するものとして近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)がある。これは、頭皮上から近赤外線レーザーを照射し脳表面のヘモグロビン変化量(ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、ヘモグロビン総量)を計測するもので脳波との同時測定も可能である。そこで、安静閉眼時において同時測定を行い、10Hz近傍のアルファ活動とヘモグロビンの変化量の関係を調べた。まず、脳波データにWavelet変換を施し時間・周波数・空間(脳波チャンネルに相当)の3次元データを構築し、多相因子分析法によりアルファ活動の強度変化に相当する成分を分離した。そして、NIRSの各チャンネルおいてヘモグロビン変化量のデータを自己回帰モデル(AR)と外生変数型自己回帰モデル(ARX)を適用した。ARXの外生部分には脳波のアルファ波の強度変化を導入した。ARとARXを赤池情報量規準(AIC)で比較し、ARXのAICが低いチャンネルはアルファ活動がヘモグロビンの変化量に動的な影響を及ぼしているということができる。全てのNIRSチャンネルと被験者(5名)においてAICを比較したところ、還元ヘモグロビンには影響は無く、ヘモグロビンとヘモグロビン総量にのみ影響があることが分かった。影響のある部位は被験者により異なるが、その応答関数の形態に類似性がみられた。この研究については、第9回日本ヒト脳機能マッピング学会大会での招待講演で"近赤外線スペクトロスコピー信号における脳波からの動力学的影響"という演題で発表を行った。また、論文誌NeuroImageにも投稿中である。 脳波とfMRI同時測定データにおける応答関数の推定については、従来の標準的な解析法との比較を行い、引き続き研究を行っている。
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