グルタミン酸受容体δ2サブユニット(GluRδ2)は小脳プルキニエ細胞に特異的に発現しており、かつ平行線維シナプスに選択的に局在している。ノックアウトマウスの解析より、GluRδ2は小脳シナプス可塑性、運動学習、シナプス回路網形成に重要な役割を担っている事が明らかとなっている。我々は成熟脳においてもGluRδ2がシナプス結合を制御しているかを検証するため、遺伝的背景をC57BL/6系統に統一し、成熟小脳プルキニエ細胞特異的にGluRδ2の欠損を誘導できるマウスの作製を行った。変異マウスへの合成ホルモンRU-486の投与により成熟期でGluRδ2蛋白質の誘導欠損が起こることを確認した。GluRδ2蛋白質の減少に伴い、小脳平行線維-プルキニエ細胞間シナプスのシナプス前部アクティブゾーンが萎縮し、逆にシナプス後膜肥厚部が拡張しているミスマッチシナプスが観察された。このミスマッチシナプスでは、GluRδ2と足場蛋白質PSD-93はシナプス後膜肥厚部のシナプス接触部分に局在しているのに対し、AMPA型グルタミン酸受容体はシナプス接触部分及び非接触部分の双方に分布していた。さらに、平行線維終末との接触が消失したフリースパインが観察され、このようなフリースパインではGluRδ2は完全に消失していた。以上の結果は、シナプス後部に存在するGluRδ2が、成熟平行線維-プルキニエ細胞間シナプスのシナプス前部アクティブゾーンの維持およびシナプス後膜肥厚部複合体の制御の鍵分子であることを示唆する。
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