神経損傷や炎症は、痛みに対して過敏な状態(痛覚過敏)や触覚刺激に対して痛みを感じる状態(アロディニア)をもたらす。シナプス可塑性のうち長期増強現象は、シナプスの伝達効率が長期的に上昇する現象であり、脊髄後角での長期増強は、これらの病的痛みの中枢内メカニズムであると考えられている。私は、脊髄から脳へと直接信号を伝えている単一投射細胞の細胞内電位と、シナプス前終末興奮の、光計測法により、グリア細胞が放出する一酸化窒素がシナプス前終末に作用し、誘導される新しい長期増強の可能性を示した。一方、末梢からの痛覚信号は、一次求心性線維を伝わって脊髄へと入力されるが、その信号の一部は線維の分岐点、あるいは中枢末端でその信号(活動電位)が抑止されているという報告がある。我々の研究で見られている長期増強は、このような抑止によって生じるサイレントシナプスが、一酸化窒素の働きによって賦活されることで起こるのではないかと考えるが、それを明確に示す結果は得られていない。本研究では、ラットの坐骨神経を露出し、そこから電位感受性色素を注入し、2日間飼育した後、脊髄後角内で順行性に電位感受性色素で染められた一次求心性線維の存在が確認された。また、後根への電気刺激によって、これらの一次求心性線維の脊髄内中枢末端で起こる神経興奮をイメージングすることができた。このようなイメージング技術を用いることで、長期増強への、サイレントシナプスの関与について明確に示すことができると考える。
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