研究概要 |
本研究では、大脳皮質形成における神経細胞移動を制御する分子経路を解明することにより、PH(periventricular heterotopia)病や滑脳症といった神経疾患の病態を分子レベルで理解することを目指している。以前我々は、この神経細胞移動には低分子量G蛋白質Rac1が必須な役割を果たしていることを報告しており、本年度はこの上流および下流の経路の一部を明らかにし、論文として報告した。神経細胞移動を誘引する因子としてEGF、BDNFなどの分泌蛋白質が知られているが、我々は、大脳皮質の初代培養神経細胞にEGFおよびBDNFを添加するとRac1活性化因子P-Rex1が活性化し、Rac1依存的に神経細胞移動を促進することを明らかにした(J.Neurosci.,2005)。さらに我々は、Rac1の下流分子のひとつJNKは微小管関連因子MAP1Bのリン酸化を介して微小管の安定性を制御していることをすでに報告しているが、本年度の研究ではこの微小管の安定性の制御が神経細胞移動に必要であることをin vivoで明らかにした(BBRC,2005)。また、発生期の大脳皮質神経細胞においてMAP1BはJNKによってリン酸化されたが、JNKと基質特異性の近いCdk5によってはリン酸化されなかった。しかし、神経変性疾患などにおいて産生される活性化因子p25と結合したCdk5はMAP1Bをリン酸化することが分かり、神経変性疾患におけるMAP1Bの高リン酸化は上流キナーゼの変化によることが示唆された(BBRC,2005)。今後は神経細胞移動におけるCdk5とJNKの役割、さらにはこれらのキナーゼとRac1の関わりについて解析を進めていき、PH病などの発生異常だけではなく神経変性疾患といった老化関連疾患も含めた広い精神・神経疾患の発症に関与する分子経路を明らかにしていきたい。
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