大脳皮質形成過程において、脳室近傍で誕生した未成熟神経細胞は軟膜側の特定の位置まで移動する。この神経細胞移動は1)脳室帯を出て多極性細胞になる段階、2)多極性細胞が一本の先導突起をもつ双極性細胞へと移行し、極性をもって軟膜側へと移動する段階、の2段階に大別され、それぞれ1)のステップはPVH病と、2)のステップは滑脳症との関連が示唆されている。以前我々は、低分子量G蛋白質Rac1が1)、2)両方のステップを制御していることを明らかにしていることから(EMBO J. 2003)、本研究では特にRac1の上流および下流の経路を調べることにより、大脳皮質形成およびその異常による脳神経疾患の機構を分子レベルで理解することを目指してきた。本研究において我々は、Cdk5-p27経路がアクチン細胞骨格を調節することにより1)のステップを制御することを明らかにし(Nature Cell Biol. 2006)、さらに2)のステップに関与するRac1-JNK経路の下流分子として微小管調節因子MAP1Bの役割を報告した(BBRC 2005)。また、Raclの上流制御因子として、以前に我々が明らかにしてきたSTEF/Tiamlに加え、P-Rex1も神経細胞移動に関与することも報告している(J.Neurosci. 2005)。さらに我々は1)のステップに関与するCdk5の上流因子を探索することにより、RaclがCdk5-p27経路の上流で機能することを示唆する結果を得ている。これらの結果に加え、JNKが滑悩症の原因遺伝子産物DCXをリン酸化すること、RaclがPVH病の原因遺伝子産物であるFilamin Aと結合することなどを総合することにより、大脳皮質形成における神経細胞移動の分子機構およびこれと脳神経疾患との関連の一端が明らかになったと考える(Dev. Neurosci. 2008)。
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