研究概要 |
低分子量GTP結合タンパク質Rhoと、その標的タンパク質であるRho-kinaseは、種々の重要な細胞応答を制御する。本研究では、運動神経細胞の発生におけるRho/Rho-kinaseシグナル伝達系の役割を検討した。Cre-loxP組み換えシステムを利用して、Rho-kinaseのドミナントネガティブ変異体を運動神経細胞に強制発現させたトランスジェニックマウス(Rho-KDNマウス)を作製し、運動神経細胞におけるRho/Rho-kinaseシグナル伝達系の活性を抑制した。このマウスを利用した研究によって、発生初期の脊髄運動神経細胞の生存にはRho/Rho-kinaseシグナル伝達系が重要な役割を果たしていることが明らかになった(Kobayashi et al.,2004;Matsushita et al.,2004)。本研究では、菱脳運動神経細胞の発生に焦点を当てた。菱脳運動神経細胞には、体性運動神経細胞(SMN)と内蔵運動性神経細胞(VMN)が存在する。胎生初期のRho-KDNマウスの菱脳では、SMNとVMNの両方に顕著なアポトーシスの誘導が観察された。一方、軸索回路形成の異常はSMNにのみ見出された。これらのことから、Rho/Rho-kinaseシグナル伝達系は、胎生初期において菱脳運動神経細胞の生存と軸索回路形成に重要な役割を持つことが明らかになった。組織培養法を用いた実験から、SMNの正常な回路形成には、Rho/Rho-kinaseシグナル伝達系による軸索細胞骨格の制御が必須であることが示唆された。また、共培養法を利用して、肝細胞増殖因子(HGF)/Rho/Rho-kinaseシグナル伝達系が、SMNの回路形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした(投稿準備中)。
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