前年度に視機眼球反応(HOKR)による実験で、運動学習記憶には短期記憶と長期記憶があり、短期記憶が小脳片葉に形成された後、その投射先である前庭神経核に長期記憶が形成される可能性を報告した。これを受けて本年度は、前庭神経核で長期運動学習記憶が形成される過程を調べることを目的に、片葉からの出力が前庭神経核での物質発現に影響するか小脳片葉に対する電気刺激をモデルとして検討した。HOKRによる運動学習実験で、スクリーンからの視覚刺激の条件に合わせて片葉に対する電気刺激条件を設定し実験を行った。麻酔下でマウスの頭蓋骨に開けた小孔からマイクロマニピュレーターでガラス管電極を片葉に刺入して、3秒間隔のパルス刺激を45分間与えた。この実験操作を1日1回3日間繰り返した。片葉が確実に刺激されているかはテレビカメラを使って刺激に同期した眼球運動を観察することで確認した。刺激は片側の片葉にのみ与え、もう片側はシャムオペレーションのみを行った。刺激実験終了3時間後にマウスを灌流固定して脳組織を摘出し、パラフィン包埋して薄切した。この標本で、小胞性グルタミン酸トランスポーター2(VGLUT2)のmRNA発現をin situハイブリダイゼーション法を使って検出した結果、刺激された片葉からの投射を受ける同側の前庭神経核で投射を受けない対側の前庭神経核と比べてmRNAシグナルが約1.4倍に増加していることが確認された。片葉からの刺激を受けない橋網様体ではシグナルの密度に有意な変化はなかった。この結果を本年度の36th Annual Meeting of the Society for Neuroscienceで発表した。
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