中枢神経系や末梢神経系における神経回路網が正常に形成されるためには、個々の神経細胞が適切な相手(ターゲット)を認識・区別し、適切な場所・時期においてシナプスを形成することが重要である。このターゲット特異的なシナプス形成によって、神経系は適切な神経情報処理を担う回路として機能できると考えられる。本研究課題ではモデル生物線虫を用い、シナプス形成初期における標的(ターゲット)認識を制御する因子群の同定を試み、その分子メカニズムの解明を目的として研究を行った。 シナプス形成におけるターゲット認識に関与する分子を単離するために、線虫の頭部にある感覚神経(ASEと呼ばれる)と、それとシナプス接続し、化学走性を制御する神経回路を形成する介在神経(AIY)との間のシナプスに注目した。ASE神経はNerve ringと呼ばれる線虫の中枢神経系において、AIY神経を含む数種の神経とシナプスを形成する。そこでASE神経のプレシナプス部位をシナプス小胞に局在するVAMPタンパク質とGFPとの融合タンパク質を用いて可視化した線虫を作製し、AIYとのシナプス形成が特異的に異常になったと推測される突然変異体を単離した。得られた突然変異体では、AIYとのシナプスに相当するASE神経軸索内のGFPの蛍光が消滅するのに対して、他の神経とのシナプス部位に相当するGFPの集積はほぼ正常であった。また、これらの2つの神経の活動を生体内でモニターする観察系として、ASEとAIYそれぞれ特異的にカルシウム感受性蛍光タンパク質を発現させた線虫を作製した。今後この突然変異体を用いて、カルシウム動態を含む詳細な表現型解析と原因遺伝子の同定を進めることで、神経細胞間における標的認識の分子メカニズムの解明に迫ることが期待される。
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