脳は非常に多くのエネルギーを必要とする。脳重は体重の5%にも関わらず全エネルギー消費量の15%を消費する。しかし脳は、エネルギー産生のための基質(ブドウ糖・酸素)をその摂取から消費過程までどのように制御しているのか、よく理解されていない。特にエネルギー需要が存在する条件下で、脳はどのようにエネルギー基質を取り込み消費するか分かっていない。このような条件として「安静時における脳虚血の状態」と「神経活動時における脳賦活の状態」の2つが挙げられる。これらの条件での代謝変化を説明する仮説として、脳がエネルギー需要時にブドウ糖を嫌気的に代謝するとする説、もう一つは安静時と賦活時で異なる代謝制御システムを持つとする説(すなわち賦活時には脳賦活に必要なグルタミン酸を産生するためにブドウ糖が代謝されている)、である。本研究は、酸素・ブドウ糖がどれだけ代謝されるかを脳賦活時・安静時に評価することでこれら2仮説を検証し、その代謝基質の制御メカニズム及び血流制御機構との関係を解明することを目的とする。本年度(1)サル実験における迅速血流・酸素代謝測定法の確立、および一部のサルにおける視覚刺激下の賦活試験を行った。新しい迅速血流・酸素代謝測定法により、従来1時間ちかく要していた測定を約6分程度と格段に時間分解能を上げることができた。この方法を用いてサルの麻酔下実験を2頭のサルを用いて行ったが、視覚刺激に対する脳血流反応性が乏しく目的とする仮説を検証する不十分と考え、視覚刺激方法、麻酔薬の工夫など検討を続けている。一方で、本研究の目的を達成するため、上記仮説を別の側面から証明するためヒトの慢性脳虚血患者の安静時にて脳酸素代謝・ブドウ糖代謝測定を行う研究を発案・計画した。既に具体的な計画は終了し当施設の倫理委員会・高度先駆委員会の承認を受けたため近日中にデータ収集を開始する予定である。
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