研究課題
脳はエネルギーを非常に多く消費する臓器の一つでグルコースと酸素をエネルギー源としている。脳へのグルコース供給は血糖値がほぼ一定値となる生理的制御システム(インシュリン、成長ホルモン、グリコーゲンによる糖貯蓄などによる)により通常は低下しないが、酸素供給は、(脳内の)酸素貯留システムや高親和性トランスポータが欠如していることから、一瞬の酸素供給低下(例えば脳虚血や低酸素状態など)でも重篤な脳障害をおこす。一方、脳の生理機能である神経細胞の電気活動自体も大量のエネルギーを必要とすることから、脳活動時におけるエネルギー代謝を維持するシステムが脳にあるとする考えが従来考えられてきた。しかしその実体やメカニズムは分かっていなかった。本研究では、脳活動時にエネルギー代謝が維持されるかどうか、あるとすればどのようなシステムによりエネルギー代謝が維持されているか、について調べることを目的として研究をおこなった。麻酔下サルにおいて視覚刺激を行い、脳血流および酸素代謝をPETを使用し同時測定することで酸素の供給と消費量を定量化した。また吸入酸素濃度を低下させたときに正常酸素濃度状態にくらべどのように脳血流・酸素代謝がどう変化し、エネルギー代謝が維持されるかを調べた。その結果、正常酸素濃度状態においては約20%の血流増加、3%の酸素代謝増加が見られたが、低酸素濃度状況下においても脳賦活による血流増加度に差はなく酸素代謝増加度は低下する傾向が見られた。これらの結果から脳賦活時において脳血流調整と独立して酸素取込を変化させるメカニズムが欠如していることが示唆された。また脳血流自体もエネルギー代謝を維持するために代償的に変化することがないこともわかった。これらの観察から脳は脳賦活時においてエネルギー代謝需要が亢進してもそれを能動的に維持するシステムを持っていないことが示唆される。
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