研究概要 |
過剰なストレス負荷が脳に及ぼす影響を解析した。まず、過剰なストレス負荷によって影響を受ける神経基盤の詳細な解析を行うためには、優れたモデル動物の選択が不可欠である。そこで本研究では、CORT分泌制御異常(誘発)モデル動物として短期持続ストレス(Single Prolonged Stress;SPS)負荷ラット(Liberzon et al.,1997,Psychoneuroendocrinology)を採用する。SPS負荷ラットは心的外傷後ストレス障害(PTSD)として学際的にも認められているモデルであり、SPSを負荷されたラットではPTSD患者と同様の長期的な視床下部-下垂体-副腎系のCORT分泌制御異常(ネガティブフィードバック制御の過剰亢進)が誘発される。そこで本研究では、このSPS負荷ラットを用いてCORT分泌制御異常が脳内のどの領域に依存しているか、また特定の神経回路連絡に変化があるのかなどを、恐怖・不安に関連のある扁桃体領域を中心に神経回路網レベルで解析した。まず、競合ELISA法を用いて各脳部位(扁桃体、海馬、前部帯状回、視床下部)において、不安行動に関係が深いとされている神経ペプチドであるニューロペプチドY(NPY)の濃度を測定した結果、SPS負荷ラットにおいて扁桃体領域のみでNPY濃度が有意に増加していた。免疫組織化学的解析の結果、SPS負荷したラット扁桃体領域の中では、基底外側核において特異的にNPY免疫陽性線維が増加していた。次に、Lucifer yellowによる単一細胞内注入標識法を用いて、扁桃体基底外側核ニューロンの形態学的な解析を行った結果、SPS負荷したラット扁桃体基底外側核ニューロンの樹状突起の分岐数と長さが健常ラットに比べて有意に増加していた。扁桃体基底外側核は情動刺激の中継核として重要であり、扁桃体基底外側核にみられたNPYの発現増加とニューロンの形態変化はPTSDにおける恐怖・不安の増強を引き起こす一要因である可能性が示唆された。
|