研究課題
過剰なストレス負荷によって影響を受ける神経基盤の詳細な解析を行うためには、優れたモデル動物の選択が不可欠である。そこで本研究では、グルココルチコイド分泌制御異常(誘発)モデル動物として短期持続ストレス(Single Prolonged Stress ; SPS)負荷ラットを採用した。SPS負荷ラットは心的外傷後ストレス障害(PTSD)として学際的にも認められているモデルであり、SPSを負荷されたラットではPTSD患者と同様の長期的な視床下部-下垂体-副腎系のCORT分泌制御異常(ネガティブフィードバック制御の過剰亢進)が誘発される。本研究では、このSPS負荷ラットを用いてCORT分泌制御異常が脳内のどの領域に依存しているか、また特定の神経回路連絡に変化があるのかなどを神経回路網レベルで解析した。まず、競合ELISA法を用いて各脳部位(扁桃体、海馬、前部帯状回、視床下部)において、不安行動に関係が深いとされている神経ペプチドであるニューロペプチドY(NPY)の濃度を測定した結果、SPS負荷ラットにおいて扁桃体領域のみでNPY濃度が有意に増加していた。免疫組織化学的解析の結果、SPS負荷したラット扁桃体領域の中では、基底外側核において特異的にNPY免疫陽性線維が増加していた。次に、過剰なストレス負荷が脳内神経回路網に及ぼす影響を、扁桃体領域、特に情動記憶にかかわる回路において中心的役割を果たしていると考える基底外側核(BLA)と中心核(CeA)に着目し、Lucifer yellowを単一細胞内注入標識によって形態学的な解析を行った。その結果、SPSを負荷したラット扁桃体BLAの錐体細胞の樹状突起の分岐数と長さが有意に増加していたが、CeAの神経細胞の樹状突起には形態的な有意な差が認められなかった。これらの扁桃体BLAニューロンにみられた形態変化から、情動反応の求心性入力が増加している可能性が示唆され、PTSDにみられる恐怖、不安の情動反応の異常へ関与すると考えられた。
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Cerebellum (in press)
Journal of Cellular Physiology 210
ページ: 684-691
Tissue Engineering 13
ページ: 147-158