本研究では網膜特異的グリア細胞であるMuller細胞のサブタイプとその細胞系譜を明らかにするとともに、外因性及び遺伝性網膜変性症のモデルマウスを用いてMuller細胞の分化・再生能を検討し、損傷網膜に対する再生療法の道を開くことを目的としている。 本年度は、bHLH型転写因子であるolig2が胎生期に分裂中の網膜前駆細胞に発現し、Muller細胞を含む網膜細胞への分化後は発現が消失すること見いだした。この結果はolig2が網膜前駆細胞の未分化状態の維持に寄与している可能性を示すものであり、Muller細胞の発生を理解する上でも重要な所見といえる。一方、低親和性神経栄養因子受容体p75^<NTR>がマウス網膜発生過程において網膜神経節細胞死を制御していることを見いだした。また網膜色素変性症モデルマウス(rdマウス)の視細胞変性過程におけるp75^<NTR>の関与を検討した結果、rdマウスではMuller細胞でP75^<NTR>発現が上昇するものの、rdマウスとp75^<NTR-/->/rdマウス間で視細胞死に変化がないことを見いだした。これまでに光誘導性の視細胞変性にp75^<NTR>が関与することが知られているが、本研究の結果から遺伝性網膜変性疾患においては光誘導性の視細胞変性とは異なり、p75^<NTR>の重要性は低いと考えられた。今後はこれらの知見を基にMuller細胞の分化・再生能を賦活化するストラテジーの検討を続ける。 本年度は上記研究に加え、外因性網膜変性症モデルとして網膜虚血実験系を用いて、網膜神経節細胞死におけるapotosis signal-regulating kinase 1(ASK1)の役割を明らかにした。さらに、糖尿病網膜症での網膜前膜形成にActivation protein-1が関与する可能性について発表した。
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