近年、成熟脳においても神経前駆細胞の存在が明らかとなった。網膜においても網膜特異的グリア細胞であるMuller細胞が網膜神経細胞へ分化することが示されている。本研究ではMuller細胞の細胞系譜、サブタイプの同定とサブタイプ毎の分化・再生能を明らかにし、損傷網膜に対する再生療法の可能性を検討する。 本年度はGEAP-cre/ROSA26マウスを用いMuller細胞のサブタイプの同定とその発生過程を検討した。その結果、GFAP発現細胞群は胎生後期に出現し、出生後5日目以降ではGFAP非発現Muller細胞がMuller細胞の多くを占めるものの、Muller細胞の約20%がGFAP発現Muller細胞であることが明らかとなった。 またGFAP・cre/ROSA26マウス由来の初代培養Muller細胞に対して神経細胞への分化誘導を試みた。その結果、FGF及びBDNF刺激によりGFAP発現Muller細胞がTUJ-1陽性像を示し、GFAP発現Muller細胞の分化能が高いことが示された。一方これまでに我々はb且L且型転写因子であるolig2が網膜前駆細胞に発現し、Muller細胞を含む網膜細胞への分化後は発現が消失すること見いだしている(Neuroreport 2006)。この結果は、0lig2が網膜細胞の分化を制御している可能性を示し、Muller細胞の発生を理解する上でも重要な所見といえる。現在olig2の発現動態とGFAP発現/非発現Muller細胞分化との関連を検討している。上述の結果とあわせて引き続きMuller細胞分化様式を明らかにし、Muller細胞の分化能を利用した損傷網膜再生への検討を行いたい。 上記に加え本年度は糖尿病性増殖性網膜症におけるMuller細胞の機能を検討し、Muller細胞からのMCP-1分泌がその病態進行に深く関わっていることを明らかにした。
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