本研究は臨床上多く観察される脳血管障害を鑑み、ラット中大脳動脈閉塞再灌流病態での代謝型グルタミン酸受容体を介するNMDA受容体チロシンリン酸化と梗塞巣形成との関連について受容体拮抗薬を用いて検討した。 平成17年度には、中大脳動脈閉塞再灌流4時間目に非受容体型チロシンキナーゼSrcの活性上昇に伴うNMDA受容体NR2Aサブユニットのチロシンリン酸化増大を明らかにした。本年度はNR2Bサブユニットのチロシンリン酸化を免疫沈降法で検討した結果、虚血群のNR2Bチロシンリン酸化はcontrol群の約4倍に増大していた。 mGluR1拮抗薬LY367385(10mg/kg)を中大脳動脈閉塞5分後に左大腿静脈より投与すると梗塞巣体積はvehicle群と比較し減少すること(平成17年度成果)から、本年度はLY367385のNMDA受容体NR2サブユニットチロシンリン酸化に及ぼす効果を免疫沈降法を用いて検討した。その結果、再灌流4時間目に増大したNR2Aサブユニットの増大はLY367385の投与により有意に抑制された。一方、NR2Bサブユニットのチロシンリン酸化増大にはLY367385の投与はなんら影響を与えないことが明らかとなった。 以上本年度の研究結果より、中大脳動脈閉塞再灌流後の梗塞巣形成には代謝型グルタミン酸受容体が一部関与し、その作用機序として再灌流後早期に増大するNMDA受容体NR2Bサブユニットのチロシンリン酸化ではなく、NR2Aサブユニットのチロシンリン酸化増大が重要な役割を演じている可能性を示した。
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