ミエリンの形成は発達段階のミエリンの新生に始まり、成人脳では脱髄と再ミエリン化を繰り返しながら機能するミエリンを生涯にわたって維持することができる。初期のミエリン形成のトリガー分子がFcR/Fynであることはすでに明らかにしたが、さらにこれらのトリガー分子は脱髄や再ミエリン化の過程(ミエリンのリモデリング機構)でも重要であると考え、野生型マウスおよびFcR/Fynを欠損したダブルミュータントマウスに0.2%カプリゾン混入餌を5週間与えて脱髄モデルマウスを作製し、さらにカプリゾン混入餌から普通餌に戻して2週間飼育し再ミエリン化モデルマウスを作製した。これらのモデル動物で実際に脱髄と再ミエリン化が起こっているかどうかを脳組織切片を作製し、電子顕微鏡等で大脳白質のミエリンを調べたところ、野生型マウスではカプリゾン投与5週間目で著しいミエリンの崩壊がみられ、普通餌に戻した脳ではミエリンの再生している様子がみられた。しかしミュータントマウスの脳では変化がみられないことがわかった。次に、脱髄と再ミエリン化のときに、FcRとFynの発現に変化がみられるかどうかをそれぞれの脳からミエリンを抽出してウェスタンブロットで調べた。野性型ではカプリゾン投与5週目でFcR、Fynともにその発現が消失しており、ミエリンの再生化が行われると再び発現がもとどおりになることがわかった。これらの結果により、ミエリンの新生だけでなくカプリゾン投与による脱髄/再生のモデルマウスにおいてもトリガー分子であるFcRとFynが重要な役割を果たしていることが明らかになった。そして生化学的な解析の結果、脱髄とミエリン再生が起こるときにマーカーとなるミエリンを構成するタンパク質は、特に発現が顕著に変化し、リン酸化・脱リン酸化の変化を受けるミエリン塩基性タンパク(MBP)の21.5kDaアイソフォームであることがわかった。
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