眼球運動系において基底核と小脳はいずれもフィードフォワード経路を構成し、大脳から脳幹に至る運動信号を修飾・調節していると考えられている。しかし一方、基底核と小脳(とくに外側部)は視床を介して大脳皮質に信号を送っており、体性運動系ではこの上行性経路が運動の企画や意思決定に関与していることが症例研究や機能画像研究によって示されている。中でも運動のタイミングの調節にこれらの上行性の信号が重要であることがよく知られており、皮質下病変における自発運動の開始異常の神経基盤として注目されている。本研究では眼球運動をモデルとして、運動の計画段階における皮質下信号の役割をサルを用いて調べた。 これまでの研究で、運動性視床の不活化により、反対側にむかう記憶誘導性サッカードの潜時が延長することを見いだし、平成17年度にNature Neuroscience誌に発表した。本年度はこの実験の前後に得られた神経活動を詳細に解析した。サッカードに先行したburst activityの大きさは視覚刺激に応じて運動をおこなったときと自発的におこなったときで多くの場合違いがなく、その一方で遅延期間中にみられたbuildup activityの潜時はinternally triggered課題でのサッカードの潜時によく相関した。このことから運動性視床は運動信号そのものというよりも、自発運動のタイミングを決定するための時間情報を大脳皮質に供給していることが示唆される。また、運動性視床から記録された眼球位置信号、smooth pursuit信号について定量的な解析を行った。これらの研究成果は平成18年度に開催された国内外のシンポジウム・研究会で発表し、またその一部は専門誌上にて発表した。平成17年度から2年間にわたる本研究課題で得られた成果は、今後新たな研究課題の中でさらに発展させることができると期待される。
|