シナプス抑圧は神経を連続刺激すると二発目以降の応答が一発目に比べて小さくなる現象で、短期シナプス可塑性の一種である。末梢神経系において、シナプス抑圧はシナプス前終末の伝達物質の枯渇が原因であるとされているが、中枢神経系においては近年シナプス後細胞側の要因の関与が示唆されている。脳幹聴覚系calyx of Heldシナプスにおいて、聴覚を獲得する以前(生後10日以前)はシナプス抑圧が強く抑圧からの回復時間も遅いが、生後14日以降ではシナプス抑圧は減少し回復も早くなることが報告されている。また生後7日ではシナプス抑圧に対してAMPA受容体脱感作阻害剤CTZの効果が見られるが、生後14日以降では見られないことから、AMPA受容体脱感作の寄与が生後発達に伴い減少することが示唆された。 本年度はまずAMPA受容体脱感作からの回復時間及びサブユニットの生後発達変化を検討した。同一のシナプス後細胞からoutside-outパッチクランプ法と定量的単一細胞RT-PCR法を適用し、AMPA受容体サブユニットGluR1のmRNA発現が多い細胞ほど脱感作からの回復時間が遅いことが明らかとなった。これと平行してGluR1のタンパク質発現が生後7日と生後14日の間に減少することが免疫組織化学法を用いて明らかとなった。 次に伝達物質放出確率が後細胞AMPA受容体脱感作に与える影響を検討した。Non-stationary fluctuation analysisにより伝達物質の放出確率を求めたところ、生後7-8日では0.45±0.04(n=6)で、生後13-15日では0.19±0.02(n=9)に減少した。細胞外二価イオン濃度を変化させ伝達物質放出確率を段階的に変えることで異なる発達段階での放出確率が揃う条件の検討を行ったところ、生後7-8日ではCa^<2+>/Mg^<2+>の比が1.3mM/1.7mM(024±0.05;n=6)、生後13-15日では4mM/0mM(0.45±0.04;n=6)であった。この条件を用いシナプス抑圧に対するCTZの効果を調べた結果、生後7-8日でCTZの効果が減少し、一方生後13-15日では刺激間隔が30ms以下で有意に効果が見られた。従って幼弱シナプスでは放出確率が高いためAMPA受容体の脱感作が生じるが、発達に従って放出確率が低下し脱感作が生じにくくなると同時にGluR1が減少することで脱感作回復時間が早くなることが明らかとなった。
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