研究概要 |
成熟海馬におけるシナプス伝達の可塑性は、海馬で行われている学習・記憶のメカニズムの一つであり、電気生理学・薬理学的方法のみならず、近年分子生物学的手法も導入されてこれまで精力的に研究されてきた。一方幼若期の可塑性は、未熟な脳組織が活動依存的に神経結合を再構築する、具体的にはよく活動するシナプス結合を残す、あるいは強化し、あまり活動しないシナプスを除去、または結合を弱めることによって神経回路を成熟させるメカニズムであると考えられている。近年申請者は、発達期海馬においては成熟海馬で見られるカルシウム・カルモジュリン依存性タンパクキナーゼによって生じる強い長期増強は発現しておらず、プロテインキナーゼAを介する弱い長期増強が発現していることを報告した(Yasuda et al.,2003)。さらに幼若期には、この弱い長期増強に伴って異シナプス性長期抑圧が発現していることを見いだした。抑制の発達していない幼若期に強い長期増強によって過度の興奮を起こさないで、かつ活動のより高いシナプスを相対的に強化するメカニズムであると考えられ、上記の活動依存的な神経結合の再構築に非常に重要であると考えられる。この異シナプス性長期抑圧は(1)若い動物であるほど抑圧の程度が大きく、(2)生後数週間にわたって観察されるが、発達とともに減弱し消失する。(3)逆行性シグナルであるカンナビノイド受容体が関与していて、(4)一部のシナプスに高頻度入力を受けた神経細胞の、入力の少ないシナプスだけではなく、別の近傍の細胞間に広がっていることを示す結果を得た。以上の結果を現在まとめて論文として雑誌に投稿する予定である。
|