研究概要 |
今回、脊髄横断スライス標本を用いて脊髄膠様質ニューロンからパッチクランプ記録を行い、脊髄内感覚情報伝達系に対するP2Y受容体活性化の影響を電気生理学的に検討した。 P2Y受容体作動薬であるUTPやUDPによってグルタミン酸作動性興奮性シナプス後電流やGABAおよびグリシン作動性抑制性シナプス後電流は影響を受けなかった。一方、2-methnylthioADPの灌流投与によってグルタミン酸作動性興奮性シナプス後電流の変化は観察されなかったが、GABAおよびグリシン作動性抑制性シナプス後電流の発生頻度ならびに振幅は著明に増強した。2-methylthioADPによる抑制性シナプス電流の発生頻度の増強作用はナトリウムチャネル阻害薬であるテトロドトキシンやグルタミン酸受容体拮抗薬により殆ど影響を受けなかったが、選択的P2Y_1受容体阻害薬MRS2179によって有意に抑制された。これらの結果より、脊髄内感覚情報伝達系において、P2Y_1受容体が抑制性シナプス伝達の賦活化に関与する可能性が示唆された。さらに、脊髄第IX層ニューロンからパッチクランプ記録を行い、代謝安定型のATP受容体広作動域作動薬であるATPγSを灌流投与すると、約半数のニューロンにおいて内向き電流が観察された。また、ATPγSによって内向き電流が観察されるニューロンにP2X受容体作動薬であるα,β-methylene ATPならびにBzATPを灌流投与したが内向き電流は観察されなかった。同様に、P2Y受容体作動薬であるUTPならびにUDPの灌流投与により内向き電流は観察されなかったが、2-methylthio ADPを灌流投与するとATPγSと同様に内向き電流が観察された。さらに、ATPγS灌流投与によって生じた内向き電流は、 P2Y_1受容体拮抗薬であるMRS2179の存在下において完全に阻害された。以上の結果から、約半数の脊髄第IX層ニューロンのシナプス後細胞においてP2Y_1受容体が発現しており、末梢の痛み刺激によって脊髄に遊離されるであろう細胞外ATPによって脊髄第IX層ニューロンはP2Y_1受容体を介して脱分極する可能性が示唆された。
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