内因性カンナビノイドは、神経細胞のシナプスにおいて逆行性伝達を担うシグナル分子として働く。シナプス後細胞より、代謝型グルタミン酸受容体の活性化やカルシウム濃度上昇を引き金にして内因性カンナビノイドが放出され、シナプス前終末に存在するカンナビノイド受容体(CB1)の活性化を介してシナプス伝達物質の放出が抑圧される。しかし、このような神経細胞の活動に伴う"on-demand"なシグナル分子発生の様式に加え、別の様式によるシナプス伝達の調節機構が存在することが示唆されている。生後1-2週の海馬CA3領域から機械的に単離した錐体細胞について、ホールセル記録法によりTTX存在下でGABA作動性微小シナプス電流(mGPSC)を記録したところ、低濃度(10nM)のCB1阻害剤(SR141716)投与によりmGPSCの発生頻度が著しく増大することがわかった。しかし、CB2受容体特異的阻害剤(SR144528)ではmGPSCに変化が見られなかった。また、逆アゴニスト作用を生じない阻害剤(O-2050)を投与したところ、SR141716と同様にmGPSCの増強作用が見られた。このことはCB1受容体の構造的な活性化によるものではなく、恒常的な内因性カンナビノイドの存在によりシナプス伝達が抑圧する機構が存在していることを示唆している。次に、この内因性カンナビノイドの発生源について調べた。まずシナプス後細胞に高濃度カルシウムキレーター(BAPTA)とG蛋白質シグナル阻害剤を投与し、同様にCB1阻害剤の効果を調べたが、mGPSCに対する増強効果に変化が見られなかった。このことは、これまでに報告されてきたシナプス後細胞における合成機構とは異なる内因性カンナビノイド合成分子機構が存在することを示唆している。
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