研究概要 |
本年度は着床初期のクローン胎盤における組織学的観察と、胎盤形成に関与する遺伝子発現解析を行った。 これまでに卵丘細胞クローン胚移植後の子宮を9.5dpcで組織学的に観察したところ、着床部位あたり31%(22/70)が尿膜絨毛膜を形成しており、そのうち約1/4の着床部位に生存産仔を確認した(8%、6/70)が、それらのほぼすべては胎盤外円錐(EPC)部を欠損していた。一方、巨細胞はすべての胎盤で確認された。EPCの細胞は二倍体の多分化能を有する栄養膜性の細胞であり、この増殖不良はクローン胎仔の胎盤形成不全につながると推測される。一方、クローン胚盤胞から、未分化栄養膜細胞の増殖因子であるFGF4を添加した培養液で、trophoblast stem cellの樹立を試みたところ、44%(12/27)の効率で樹立に成功した。また同じ実験群の胚盤胞から13.1%(5/38)の効率でES細胞が樹立できた。よってクローン胚においては、内部細胞塊からの未分化栄養膜細胞維持あるいは増殖刺激の低下が生じている可能性が示唆された。 そこでRT-PCRを用いて、胚盤胞期胚におけるFGF4の発現解析を行った。結果は、体外受精胚では全ての胚においてFGF4の発現が確認されたが(39/39、100%)、クローン胚では発現の全くない胚が見られた(35/38、92.1%)。現在は、さらに配列特異的プローブを用いた定量PCRの実験系の確立を行っている。 来年度は、定量PCRによるFGF4の定量的解析を進めるとともに、その他の胎盤形成に関わる遺伝子(FGF2,FGFr2)の発現解析や、各抗体を用いた組織染色によりクローン胎仔胎盤形成の異常について明らかにしていく予定である。
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