研究概要 |
本研究は心血管デバイス、特に左心補助人工心臓装着時の左室心筋壁組織に対する圧力・容積負荷低減効果が心筋細胞の収縮機能を回復させるメカニズムについて、心筋電気生理とバイオメカニクスの観点からコンピュータシミュレーションを用いて解析的に明らかにすることを目標として検討を進めてきている。本年度は、心筋細胞膜活動電位モデルと心筋収縮張力モデルを統合させ、なおかつ心筋の電気的活動と機械的活動両者の相互作用を再現するために機械受容チャネルを組み入れることで昨年度から開発を続けている心筋細胞電気・機械モデルのモデル特性についての評価を重点的に行った。その結果、機械受容チャネルを導入することは機械刺激に対する電気生理応答の検討において重要な役割を果たしうることが示唆された。すなわち機械受容チャネルの組み込みにより、心筋への圧負荷を低減させより短縮しやすい条件下を想定することで細胞内カルシウムハンドリングが改善され、活動電位持続時間が正常に戻る傾向に向かう可能性があることが示唆された。これらの成果は第45回日本生体医工学会大会及び第44回日本人工臓器学会大会にて発表した。 更に、心筋細胞のクロスブリッジ形成に伴う収縮張力の発生とサルコメア長短縮及び細胞内カルシウム動態に関する相互作用について検討したところ、収縮張力モデルとして採用しているNLモデル(Negroni&Lascano,1996)の張力-長さ関係及びそれに対するカルシウム感受性や収縮後の回復過程において実験的な特性からやや逸脱している部分があることから、カルシウム動態の詳細な解析のためにはモデルの改良や更なる検討が必要であることが考えられた。次年度はこれらの問題を解決させ、心筋細胞レベルでの電気生理現象及び機械応答の相互作用についてより詳細な検討を行う予定である。
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