今年度は、薬物投与による活動電位波形変化から推測した結果を用いて薬物の危険度を判定する手法を特許として出願した。これは、ある薬物が投与されているときに心筋が何らかの病的状態にさらされると不整脈を発生する危険度が悪化するか否か、悪化するならばどれくらいかを数値化する仕組みである。これにより、薬剤作用が心筋細胞の恒常性に与える影響を可視化して示すことが可能となった。 薬剤により修飾を受けたパラメータを求める過程で必要な計算を1台のパーソナルコンピュータで実行すると1週間にわたる計算が必要であった。そこで、パラメータ最適化に用いる評価関数を改訂し、分散計算システムと統合した。PCクラスタへと計算環境がスケールアップされたことで、より簡便かつ短時間で感度解析を実施できるシステムが整備できた。 昨年度は遅延整流性カリウムチャネルの遅い成分だけに作用する薬剤による活動電位変化を正しく判定し得ることを確認したので、本年度はカルシウムチャネルを抑制するニフェジピンによる活動電位変化を評価することを目標に評価関数、評価手法に改良を加えた。と同時に、より多種の薬剤作用結果データを入手し、システムの検証を行うため、これまで本研究に主に携わってこなかった研究者でも使用出来る形に生体パラメータ最適化システムをパッケージ化し、配布した。 心筋シミュレータの実行環境であるsimBioについては、以前の数理モデルをより発展させたモデルを作成したとき、それら2つのモデル間の差分だけを記述する方法を開発し、公開した。これにより論文の焦点をより明確にプログラム上も示すことができるようになった。そして論文公開と同時に図を生成できるプログラムも公開した。また、バージョン0.3.02としてインターネットで公開するとともに、simBioの使い方と心筋細胞数理モデルである京都モデルの作成法を解説した書籍を出版できた。
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