今年度はヒトにおける薬効を推測しうるシステムの研究に取り組み、一定の成果を収めた。そのためにはシステム全般の改良に取り組む必要があった。すなわち、シミュレーションシステムsimBioの改良と更新、最適化プログラムの高速・高機能化、モルモット実心臓から最適化に適した記録を取得する手法の開発、ヒト心筋細胞数理モデルの開発、ヒト心筋における不整脈の再現に取り組んだ。 最適化プログラムでは、数理モデルのパラメータ空間であらかじめ計算結果を生成しておき、多数の入力データに対して高速に評価することを可能とした。最適化手法としては応答曲面法を実装し、パラメータ空間を可視化して最適解を求めることが出来た。これを用いて、13種類の薬剤投与実験結果を解析したところ、個々の薬剤について知られている作用を説明しうる結果が得られた。また分散計算ルーチン、最適化評価関数計算ルーチンを統合し、マニュアルを整備し、利用手順を簡便化してパッケージ化し、公開の準備を整えた。ランゲンドルフ灌流下のモルモット心臓標本から心筋活動電位と収縮張力を同時記録することで、よりシステムの精度を向上させた。ヒトでの催不整脈の評価に利用するため、ヒト心筋から得られたイオンチャネル電流記録などに基づき、ヒト心筋細胞数理モデルを開発している。ヒトからのデータはモルモット等の実験動物と比して限られているため、包括的モルモット心筋数理モデルを基準として機能要素をヒトのモデルに置き換えて実現している。そして、これを用いて自発性脱分極の再現に取り組んだところ、細胞内カルシウム動態に外乱を与えることで、後期再分極を再現しうることを発見した。
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