研究概要 |
骨組織の機能修復に用いる人工物のみで構築された人工骨は、提供者の倫理上の問題がなく安定した供給が可能で、保存も容易である。さらに、感染の心配もないので、移植や組織工学には無い利点を多く持つ。特に再生能力の旺盛な骨組織では、そのような体内での再構築を促進する人工材料の使用が望ましいと考えられる。リン酸三カルシウム(TCP, Ca_3(PO_4)_2)は、異物反応を起こさず、しかも生体内で骨再生に伴い吸収される材料として人工骨に使用されている。しかし、TCPには,(1)焼結性に乏しく焼結に高温を要する、(2)骨結合性が十分でない、(3)生体内での吸収速度の調整が困難である、等の問題がある。そこで、粒界にシリケートが残存するようなTCPセラミックを設計すれば、その吸収速度を制御でき、しかも高い骨結合性を示すと期待される。本年度は、まず出発原料となるリン酸三カルシウムの湿式合成の条件を検討した。酸化カルシウムの懸濁液にCa/Pモル比が1.5となるようにリン酸を種々の条件で混合し、その後沈殿物を回収した。回収後、沈殿物を800℃で焼成した。得られた生成物の構造をX線回折により調べたところ、混合条件を選択すれば、β-TCP単相が得られることが分かった。さらに、この合成過程でケイ素化合物を添加し、得られた生成物を800℃で焼成すると、主に高温型のα-TCPからなる生成物が得られた。ケイ素を添加することにより、リン酸三カルシウムの結晶相を制御できることが分かった。今後、添加したケイ素が、結晶格子内に存在するか粒界に存在するか調べていく予定である。
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