研究概要 |
赤血球が酸素運搬や酸塩基平衡の調節に関与するだけでなく,積極的に微小循環血流維持作用を発揮している可能性が示唆されてきている.具体的には赤血球が血管内の酸素濃度を感知してNOなどの低分子のガスや有機酸を活発に放出・回収を行い,その一部が血管拡張や血小板活性化制御に関与する可能性が示されつつある.本研究は血管作動物質のシンクリザーバーとしての赤血球の分子機構解明を試みることにより,高い酸素運搬能と微小循環血流保持機能を付与した新しい赤血球製剤開発に必要不可欠な理論基盤を構築することを目的とし赤血球の微小循環における酸素運搬能と血流改善効果を出血性ショックモデルを用いて解析を行った.ヘモグロビンα鎖にNOを結合させたα-NO赤血球は循環内半減期が約1時間であり,ショックに対する酸素供給,血流改善が十分であることが明らかになった.また霊長類のコモンマーモセットを用いて輸血実験を行った.(1)出血性ショックに対してα-NO赤血球を輸血した結果,ショック前の血圧まで十分回復することが明らかになった。また対照として用いた洗浄自己赤血球群より増大する傾向が認められた.これまでの齧歯類による実験結果においてもα-NO赤血球による輸血は良好な血圧の回復を示したが,霊長類においてもそれが確認された.(2)輸血後の血液分析から,血漿pH,乳酸値は正常範囲まで回復することが明らかになった.これはα-NO赤血球が組織における酸素の需要に対して十分供給されていることを示す結果である.これまでの齧歯類の実験から,α-NO赤血球は代謝性アシドーシスを改善する効果を有することを示したが,今回のコモンマーモセットの実験からはその優位性を示すには至らなかった.これは動物種によるショックに対する抵抗性の違いによるものと思われた.以上よりα-NO赤血球の輸血効果は対照として用いた自己血液群と同等の効果を有することを示すに至った.
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