研究概要 |
力学的環境要因による支配が顕著である骨の適応や疾患などの現象を完全に解明するためには,骨の力学的特性に及ぼす遺伝子情報と力学的環境要因との相互作用に関する研究が重要になるものとが考えられる.そこで本研究では,骨の性状を微視的に評価することの可能な微小硬さ試験ならびに骨の無機成分率計測を、成長ホルモンの分泌を遺伝的に抑制させたトランスジェニックラットの皮質骨に対して実施した.さらに,骨付着部付近の腱組織を摘出し,透過型電子顕微鏡による微細組織の観察を行った.成長の遺伝的抑制によって小型化したトランスジェニックラット(Transgenic群)および通常ラット(Control群)を実験に用いた.これらより大腿骨を摘出した後,長さ5mmの円筒状試料を切り出した.その後,試料断面を研磨し,マイクロビッカース硬さ試験機を用いて微小硬さを計測した.圧子に作用させる荷重を50gfとして硬さを算出した.また,試料の乾燥質量と試料を燃焼(600℃)させた後の骨灰質量の比から,骨の無機成分率を求めた.さらに,骨付着部付近の膝蓋腱から超薄横断切片を作製して,透過型電子顕微鏡によるコラーゲン線維構造の観察を実施した.Transgenic群の微小硬さおよび無機成分率に,Control群との間に有意な相違はみられなかった.従って,Transgenic群では骨形状は小さいが,骨の材料特性には成長ホルモンの抑制による変化がみられないことが示唆された.しかし,透過型電子顕微鏡による腱コラーゲン線維の観察では,Transgenic群の組織に占めるコラーゲン線維の含有割合に減少する傾向がみられた.線維の三次元的構造やクロスリンクなど,今回の横断面微細構造観察では調べることのできない分子レベルでの構造の違いがTransgenic群とControl群との間にあると考えられ,今後これらに関する検討が必要である.
|