今年度はまず、CT装置を用いて様々な試験片を様々な条件で撮影し、得られるデータの分析作業を行った。特に、ラット乾燥下顎骨のCT撮影により、空気領域のCT値に対する骨体から生じるアーチファクトの影響について検討を行った。そして、筆者らが有するアーチファクト低減手法において、投影データ改変手段は金属のように大幅に高いCT値を有する領域に対して有用であり、骨体領域に起因するアーチファクトについては効果が低いことがわかった。また、骨体領域に起因するアーチファクトを低減するためには、繰り返し計算に基づく誤差低減手段を加えることが有効であることを確認した。 さらに、CTデータの分析作業により、アーチファクトの発生メカニズムにはX線吸収量の波長依存性が重大に影響していることが明らかになった。CT画像再構成の理論は、物質ごとの吸収係数に従ってX線が一様に吸収されることを前提としており、これは単色X線の場合に成立すると考えられる。しかし、一般に市販されているX線CT装置が搭載しているX線源のように多色X線の場合には、物質の吸収係数はX線波長によって異なるため、結果として検出器が出力する情報が透過部位ごとに一様ではなくなっている。この現象を回避する画像再構成手法・撮影技術として、複数の波長のX線を被写体に照射することによってX線吸収係数の波長依存性を補正する方法を開発中である。この手法が完成すれば、従来よりも低いX線強度によるCT撮影で、軟組織を含めた生体組織全体の鮮明なスライス画像を得ることが可能になると期待される。
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