研究概要 |
体幹部画像の構造認識は,基本的にCT画像からの多臓器・組織の自動抽出問題である.本研究では,人体の解剖学知識に基づいて,画像内の全ての領域の空間的な関係(包含・隣接・独立)と濃度情報の関係によって,人体の解剖学的な構造を一つの木構造で表す方法を提案した.そして,原画像から,定義されている木構造に沿って,各臓器・組織を濃淡情報と空間情報を用いて逐次的に決定する方法を用いた. 前年度では332症例の体幹部CT画像に対して以上の方針で処理手順を適用した結果,開発した手順は約70%の症例に対して,人体の大まかな構造(皮膚,皮下脂肪,筋肉,骨格,内臓脂肪,肺野,気管,従隔,横隔膜,肝臓など)の分類に成功した.また,肺野について肺葉構造まで自動的に認識する手順を開発し,良好な結果が得られていたことを共同研究の医師が確認している. 今年度は,以上の画像処理手順を改善することによって,より詳細な解剖構造の自動認識を進めている.われわれは体表面を基準面にして3次元である解剖学的人体構造を,平面上に展開する新しい方法を提案した.この手法によって,3次元で複雑な筋肉,骨格構造を2次元平面上で分析することが可能となった.この方法を従来のシステムに加えて,体幹部の骨格構造(脊柱,肋骨,肩甲骨,鎖骨,胸骨,寛骨,仙骨)を自動的に認識する手順を開発し,手順の有効性を確認した.また,抽出されている筋肉領域に対して,腹直筋,大腰筋,乳腺と胸筋の認識も行い,初期的な実験から,骨格筋の分類もCT画像上で実現可能であることが分かった. 肝臓血管は肝臓の精密診断の重要な対象となっている.一般的には,それら血管を観察するために造影剤を用いることが必要であるが,これには一定の危険性を伴う.そこで,本研究では,非造影のCT画像において,肝臓血管を自動的に強調・抽出する手順を開発した.それによって非造影のCT画像上でも,元々観察しにくい肝臓の血管領域を明瞭に提示することができるようになった.そして,同一患者の血管造影画像と比較した結果から,主要な肝臓血管は正しく強調されていることを確認した.このような非造影のCT画像からの血管抽出もこれまでに報告されたことがなく,本研究で初めて実現したものである.
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