本年度は、イオンの飛程終端の発光信号を検出する検出器および計測回路系の構築を主眼において研究を進めた。 1.飛程調節器として、イオン飛程を連続的に制御可能な楔型断面(θ=30.5°)を有する、アクリル製飛程調節器を製作した。 2.組成・密度において生体との類似性を勘案し、さらに発光感度等の物理特性を考慮してシンチレータの選定を行った。密度が1.02g/cm^3で生体と同等であり、最大発光波長が435nmの可視光でシンチレーション計測に有利なポリビニルトルエン系シンチレータ(t=10μm)を採用した。また、シンチレータの発光を側方から検出するための、UVTアクリル製ライトガイド・光電子増倍管アッセンブリを設計・試作した。 3.計測回路系として光電子倍増管の信号を前置増幅器-主増幅器-波高弁別器の順に処理して、パソコン(PC)内にデジタルデータとして収集するシステムを構築した。製作した機器・計測系の動作確認・検証実験を、イオンビームの大気取り出し系が確立している3MVシングルエンド加速器に接続した軽イオンマイクロビーム装置を利用して行った。実験では、1μmに集束した3MeVのH^+ビームを飛程調節器上に走査(50-100μm^2)しながら照射し、透過したイオンを飛程調節器後方に設置したシンチレーターライトガイド-光電子倍増管にて検出した。このとき光電子倍増管から、イオンのエネルギーロスに対応した発光信号を観測することに成功した。 4. 3.で取得された発光信号を検出イベント毎にビームの走査位置情報と共にPCに取り込むことにより、2次元発光強度分布を計測した。この結果、ビームの飛程が飛程調節器の厚さをわずかに上回る領域で、飛程終端部のエネルギーロスのピークに由来すると思われる高い発光強度が観察された。
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