研究概要 |
筋細胞への伸張刺激は,筋の成長や肥大を促進し,筋萎縮の進行を抑制することが知られている。骨格筋の再生は発生や成長とよく似た過程をたどるといわれているが,正常筋の成長を促進させる伸張刺激が,傷害された筋の再生にどのような効果をもたらすのか,これまで不明であった。平成17年度には,マウスヒラメ筋の微細損傷モデルに対して伸張刺激を加え,形態学的変化を経時的に観察して筋再生に及ぼす影響を調べた雄マウス133匹に下り坂走行を90分間課し,ヒラメ筋に伸張性筋活動による筋傷害を誘発させ,直後に30分間の伸張刺激を加えた群(RS群:n=47)と加えない群(R群:n=47)に分け,運動12時間,1,2,3,5,7,14日にヒラメ筋を採取し,光学および電子顕微鏡で観察した。なお,運動負荷や伸張刺激を加えない群(n=34)を対照とした。また,事前にエバンスブルーを数匹のマウスに腹腔内投与し,運動12時間,1,2,3時間後にヒラメ筋を採取し蛍光顕微鏡で筋細胞膜損傷の有無を調べた。さらに,筋線維断面積と壊死線維数スケールの定量解析を行った。運動12時間後からRS,R群ともに筋線維の蛇行や筋原線維の乱れがみられたが,筋細胞膜の破壊や炎症細胞の浸潤はほとんど観察されなかった。また,事前に投与したエバンスブルーに染色された筋線維はほとんど観察されなかった。3群のどの時期にも壊死線維はほとんど観察されなかった。RS群では運動12時間後,R群では1日後に,筋線維周辺部にフレア状に拡張した細胞質領域が出現した。これらの領域はミトコンドリアとリボゾームで満たされ,筋線維の核は明るく著明な核小体を備えていたことから,細胞内修復に必要な線維構造タンパク合成の場である可能性が示唆された。また,RS群の方が修復タンパク合成細胞質領域が早期より出現し,早く消失して,筋線維の内部構造や筋束の正常化が早まった。さらに,RS群の方が,早く断面積が回復した。これらの結果から,伸張刺激は運動や外傷で生じる筋損傷を軽減し,さらに,その後に生じる筋の再生を促進している可能性が示唆された。
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