研究概要 |
本研究の目的は,前頭連合野を活性化するために,前頭連合野の主要な機能であるワーキングメモリと目的指向的行動を基盤にし,個人によってカスタマイズ可能なリハビリテーションプログラムを考案することである.本トレーニングを前頭連合野に障害がある患者が実施することで,単なる反復訓練ではなく,目的に向けて記憶や行動をどのように組織化し,実行すべきかという実生活に密着した経験をすることが可能となり,スムーズな家庭及び職場復帰に寄与すると考えられる.本研究目的のために,平成17年度は,目的指向的自己選択課題(SSトレーニング)を作成し,妥当性の検討,前頭連合野に血流低下を認める認知症例に対する試行を行った.トレーニング課題は,富士ソフトABCにてコンピュータプログラムのベースを作成し,申請者が細部の修正,追加を行い,作成した.わかりやすさ,楽しさを追求し,画像も取り入れることができるよう工夫した.患者の遂行データは時系列に沿って出力できるように精密に作成した.健常成人10名に試行し難易度を検討した後,認知症例に導入した.発語や短期記憶が非常に困難な症例であったが,患者が興味を示す花に関する課題を作成するなど個人にカスタマイズして実施したところ,好みの表出が可能となり,自発語や笑顔が増加した.また,例えば「花束を作る」という目的を記憶しながら,自分の好きな花を選択することや介護者の娘にプレゼントしたいと言い,娘の好みに合わせて花を選ぶといったことも見られた.これらのことから,本トレーニングは,患者の短期記憶,自発性,意欲といった認知・情動の両面に対して効果的に働きかけ可能であることが明らかになりつつある.平成18年度は,複数の患者に対してSSトレーニングを実施し,標準化された評価指標で効果を測定することで,本トレーニングの有効性を明らかにしたい.
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