研究概要 |
本研究は日本の消化器心身症患者に対して作業療法を実施し,心理学的効果,脳機能を含む生理機能の変化を検討し,作業療法介入方法を確立することを目的とした. 平成18年度は,消化器心身症(過敏性腸症候群,Irritable Bowel Syndrome : IBS)に対する作業療法介入法を実施した.作業療法介入法は治療時間1回あたり60分間のパッケージとし,1)性格傾向・興味関心チェック(活動内容決定),2)骨格筋ストレッチ(リラクセーション),3)腰部体操,4)手工芸,陶芸等とした.介入期間は1週間に1回の頻度で全8回とした. 調査対象は成人大学生315名から,IBS質問紙ならびに心理質問紙によってIBS症状を持つ19名(男性9名,女性10名)を抽出した.IBS対照群として年齢と性別を適合したIBS患者15名ならびに非IBS患者15名に協力を依頼した.作業療法介入に先立ち,消化器心身症質問紙(IBS質問紙),心理質問紙,大脳皮質血流量計測機器,唾液中クロモグラニンA試薬を使用してストレス反応の調査を実施した.対象者全員に対し,経皮電気刺激による腹部体性知覚閾値を測定した.研究参加者全員にインフォームドコンセントを実施し同意を得た.本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会により研究倫理審査を受け,承認を得た. IBS群は非IBS群(健常対照群)に比べ,不安のスコアが有意に高く,腹部皮膚電気刺激に対する知覚閾値が低かった.また,心理ストレスマーカーとして測定したクロモグラニンAのタンパク補正値はIBS群が非IBS群に比べ有意に高かった.骨格筋ストレッチの直後,クロモグラニンAのタンパク補正値はIBS群では有意に低下し,非IBS群と比較して差はなかった.2ヶ月間(合計8回)の作業療法介入後,IBS群とIBS対照群との消化器症状ならびに心理検査の結果には有意な改善値は認められなかったが,症状の緩和傾向が認められた.消化器心身症に対する作業療法介入が病態に奏効するメカニズムについて,平成19年度は脳血流量解析を含めさらに詳細な検討を行う予定である.
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