研究概要 |
本研究ではロービジョンの見え方の推定や日常生活行動の予測を行うための視機能検査として活用されているコントラスト感度特性(CSF)について,数字を視標として用いた新しいCSF測定法の開発を目的としている。平成18年度では,数字を視標とした場合のコントラスト感度の値と,測定用のアルファベット文字であるSloan文字を視標とした場合でのコントラスト感度の比較を行った。 研究は実験的方法で実施した。数字視標は0,1,2,3,4,5,6,7,8,9の10種類をゴシック体(平成角ゴシックstd W3)で,Sloan文字視標はC,D,H,K,N,O,R,S,V,Zの10種類を用いた。数字とSloan文字ともに視角2度でコンピューターで制御したCRTに呈示した。背景と視標の輝度コントラストを10段階設定し、心理物理学的測定法の一つである恒常法を用いてそれぞれの数字についてどれくらいのコントラストなら視認できるかを表すコントラスト閾値の測定を行った。被験者は視覚に障害のない健常者9名であり、呈示された数字をキーボードを用いて反応した。 その結果,数字では全10文字の平均感度は1.9411±0.075(logCS)であり,「1」の感度は他の文字よりも低い傾向が見られた。他の文字と比べて「1」は文字幅が異なっていたことが影響していた可能性が考えられた。一方,Sloan文字の平均感度は1.8934±0.0927(logCS)であり,「O」の感度が低い傾向が見られた。年齢がほぼ同じで矯正視力1.0以上の大学生9名の被験者で恒常法で測定されたコントラスト感度は,数字>Sloan文字であり,統計的に有意差が認められた。しかしその差は0.0477logCSと僅かであり,一般のコントラスト感度測定チャートの精度よりも小さいことがわかった。 以上より,数字視標で測定するコントラスト感度と,欧米で主に使用されているPelli-Robson chartで用いられているSloan文字を視標とした場合のコントラスト感度は違いがあるが,その差は極く僅かであることがわかった。数字視標の測定値とPelli-Robson chartの測定値は大きな違いはない,と考えることが出来るが,値の変換には本研究の両視標の測定値の差を利用できると考えられる。
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