本研究では、四肢、頭部および頚部の運動機能を用いずとも演奏できる電子楽器の開発を目的としている。楽器演奏の際に使用する四肢に代わる部位として、本研究では舌や顎の運動機能を用いることを提案した。これら口腔機能は、発話や嚥下時における巧みな運動制御が可能であり、その繊細な動きを利用したヒューマンインターフェースの実現については従来から多数指摘され、本研究の遂行課程からも相応の成果を挙げてきた。さらに、文字記号の入力のみならず、楽器演奏等の動作についても十分対応できることもあわせて示すことができた。 最終年度となる本年度の研究成果を次に示す。 1)楽器演奏システムのユニット化 本電子楽器は、操作部、音源生成部および音声出力部からなるが、それぞれのインターフェースを統一してユニット化し、各部位の交換を容易にするよう工夫した。本操作部を用いて継続的な演奏試験を行い、上達の経緯を記録した。 2)車椅子で演奏するシステムの実現と音楽療法への適用 音源生成部の完全MIDI対応化を図り、電動車椅子でも操作可能な楽曲演奏環境を構築した。本装置は、口腔機能で操作する操作部をマトリックス状に配置した押下式マットスイッチに代替し、それを車椅子の車輪で踏むことによってMIDI信号を生成させ、MIDI音源機器から楽音を発生させて楽曲を生成する仕組みを有する。これを用いて、音楽療法プログラムを開発し試行したところ、唾液中アミラーゼ値の減少が見られ、ストレス軽減効果の可能性を見出した。
|