目的:作業記憶を要する眼球運動の一つである記憶誘導性サッケードの反応時間の頚部前屈姿勢保持に伴う短縮の様相について検討した。 測定1:被験者は、成人8名からなる。安静頚部姿勢の条件と20度の頚部前屈角度を保持した条件(頚部前屈姿勢保持条件)にて、以下のサッケード課題を行った。 記憶誘導性課題:中心点の点灯2秒後に、側方にある視標が100ms間点灯する。中心点の点灯中、被験者は中心点を注視し続け、その状態で点灯した視標の位置を記憶する。視標の消灯2〜4秒後に中心点が消灯する。中心点消灯後、記憶した位置へ出来る限りすばやくサッケードを行い、その位置を注視する。視標の位置は、右視角5度及び10度と左視角5度及び10度とし、ランダムに提示する。右視角10度の視標の出現率を70%とし、その他の3つはそれぞれ10%とする。 分析対象は、右視角10度の視標呈示時の眼球運動である。サッケード反応時間は中心点の消灯に対する眼球運動開始までの遅延時間とし、これを分析項目とした。 測定2:被験者は、同一の8名からなる。安静頚部姿勢の条件と頚部前屈姿勢保持条件にて、測定1と同様のサッケード課題を行わせる。その課題中に左半球の前頭眼野領域へ経頭蓋的磁気刺激を行う。磁気刺激タイミングは、中心点の消灯後0msから180msまで5msごとに設定する。これらの結果より、反応時間の延長がみられた磁気刺激タイミングを同定する。その後、反応時間延長がみられたそのタイミングを考慮して、それら付近の帯域に焦点を当て1ms刻みで磁気刺激を行う。分析項目は、サッケード反応時間である。 結果:測定1の検討の結果、記憶誘導性サッケード反応時間は、安静頚部姿勢に比べて頚部前屈姿勢保持の方が有意に短く、それぞれ228.1ms、206.5msであった。測定2の検討の結果、いずれの条件においても前頭眼野領域への磁気刺激によってサッケード反応時間が延長する一過性の干渉がみられた。干渉が生じるタイミングは、安静頚部姿勢に比べて頚部前屈姿勢保持の方が早く、それぞれ中心点消灯後、約115ms、100msであった。頚部前屈姿勢保持による記憶誘導性サッケードの反応時間短縮と前頭眼野領域までの情報処理の早期化とが対応していることが推察された。
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