研究概要 |
炭酸泉浴は動脈血圧の低下や除脈、また、皮膚血管拡張による皮膚血流量の増加を引き起こすことが知られている。我々は、これまでに、水温35℃では浴水の含有炭酸ガス濃度に依存して皮膚血流量が増加すること、血圧の顕著な変化なしに徐脈が発現し、ヒト炭酸泉浴時のモデルとなり得ることを報告した。本研究では、徐脈発現の入力メカニズム解析の第一歩として、経皮的に滲入したと考えられるCO_2によって引き起こされる変化の受容機構を検討するため、中枢への情報伝達因子として可能性のある動脈血のpH,酸素分圧(PaO_2)、二酸化炭素分圧(PaCO_2)の測定を行った。また、皮膚近傍で生じた変化が神経性求心路を通じて入力されている可能性を検討するため、脊髄切断実験も行った。動脈血pH, PaO_2、PaCO_2には水道水浴と人工炭酸泉浴の間に有意な差が見られなかった。炭酸泉浴により皮膚を通じて滲入すると推定される炭酸ガスは、PaO_2もPaCO_2も変化させなかった。これらの現象から徐脈の発現が頸動脈小体等の化学受容器を介して生ずるものではないことが示唆された。さらに、人工炭酸泉浴中に見られた徐脈及び皮膚血流量の増加は切断後に消失する傾向であった。人工炭酸泉浴中に見られる徐脈は、血液ガスなど、既知の液性因子により中枢へ運ばれる情報によるのではなく、皮膚近傍の炭酸ガス分圧上昇により生ずる変化を受容する何らかの機構があり、その情報が神経性に受容され中枢を介して心機能を変調している可能性が高いと考えられる。また、我々は人を被検者として、人工炭酸泉部分浴における浸漬部の酸素化ヘモグロビン動態について検討を開始したところである。例数は十分ではないが、人工炭酸泉により、浸漬部皮膚のみならず、筋組織の毛細血管が拡張し、血流量が増え、その結果、Oxy-Hb/Mbが増加した結果を得ている。 上記の研究成果は国内外の学会または論文等で発表された。
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