平成17年度には、ホッケーアソシエーションのゲーム普及戦略形成の背景を検討するため、その意思決定に関与した役員の1人であったスタンレー・クリストファーソンがいかなるゲーム観を有していたのかを検討した。彼は有名パブリックスクールOBであり、ミッドランド銀行頭取やノーフォーク州長官を努めたエリートであった。傑出したプレーヤーであると同時に、ホッケーアソシエーションの名誉幹事兼会計を務め、同組織の意思決定に深く関与した。19世紀末までには、ホッケーアソシエーションのゲーム普及戦略はほぼ確立していたと評価することができるが、その大きな特徴は会員資格を「真のアマチュア」に限定し続けた点にあった。エリート層の男性にとってのプロ化の弊害は、慎重に排除された。この規約の影響の下に、ゲームは地域限定的に、緩やかに普及していった。こうした背景の中で、彼は、ホッケーアソシエーションによって統括されるのは、1)アマチュアのための、2)男性によるゲームであるべきである、と主張していた。こうしたクリストファーソンのゲーム観は、当時のホッケーアソシエーションのゲームをプレイするエリート層男性たちの、ゲーム観の一側面を代弁するものであったと仮説付けられた。 平成18年度には、並存していた男性、女性のどちらの組織にも統括されることなく、独自の展開を見た男女混合ホッケー(mixed hockey)のゲームについて、1914年までを対象に検討した。結果、男女混合ホッケーのゲームは、男女両者の主導的なプレーヤーからの批判や、愛好家による擁護など、さまざまな議論を喚起しつつ、主にクラブゲームとして確かにプレイされ続けていたこと、男性、女性の統括組織の並存状態をめぐる問題をさらに複雑なものにしていたことが明らかになった。またこれまで十分指摘されてこなかったホッケー普及の多様性が示唆された。
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